論文執筆のためのガイドライン

 学部の4年次および研究科の2年次では、卒業論文や修士論文の執筆に取りかかり、毎年1月の期限までに提出します。これらの論文の「書き方」には一定のルールやマナーがありますので、本ガイドラインでは、主に卒業論文を想定して、その基本的な事柄について解説します。解説の内容は修士論文にもおおむね共通しますので、参考にして下さい。
 なお、「論文の書き方」については、それぞれの学問分野をはじめ、学会や教員などによって、ルールや慣習が異なる部分があることが少なくありません。したがって、本ガイドラインは、本研究室での、いわば“ローカルルール”であることをあらかじめ了解願います。

<目次>
 1.「論文」を執筆する前に知っておくこと
  1)卒業論文/修士論文について
  2)そもそも「論文」とは
  3)「論文」の「長さ」について
  4)「内容」に関する基準について
  5)「形式」に関する基準について
2.「論文」を執筆する上でのルールやマナー 
  1)「原稿用紙」の使い方
  2)論文構成について
   ①「論文」の全体構成について
   ②「序論」について
   ③「本論」について 
   ④「結論」について
  〔コラム〕漢詩の絶句の形式と構成 
  3)「引用と出典表記」について 
  4)「文章表現」について
  5)「執筆要領」について

☆地球のことば(32):「本当の勇気とは報復しないことではないか」

ぼくは思う。暴力は暴力の連鎖しか生まない。報復すればさらに凶悪なテロの被害が、アメリカ人だけでなく世界中の人間に及ぶことになろう。巨大な破壊力をもってしまった人類は、パンドラの箱を開けてはいけない。本当の勇気とは報復しないことではないか。暴力の連鎖を断ち切ることではないか。

坂本 龍一(さかもと・りゅういち 音楽家 1952-2023)
出典:坂本龍一「私の視点:報復しないのが真の勇気」『朝日新聞』2001年9月22日(再録:坂本龍一+sustainability for peace(監修)『非戦』幻冬舎、2002年、19-21頁)。

図1:『非戦』表紙

<コメント>
 音楽グループ「イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)」のメンバーだった坂本龍一が亡くなった。テレビ各局や新聞各紙が訃報を伝え、国内外から追悼の声が寄せられたが、若い世代の多くにとってはかなり距離感のあるニュースだったのではないか。今から40年以上も前のことだが、大学1年の年の瀬に、第2回ワールドツアーの東京公演を武道館の2階席の片隅から傍聴した。それ以来、YMOを長く愛聴してきた自分にとって、同じく今年1月に亡くなった同メンバーの高橋幸宏(1952-2023)に続いての訃報には、内心穏やかではいられないのである。
 それはともかく、これまでYMOを聴く機会がなかったのであれば、まずは試しにかれらの代表曲である「テクノポリス」や「ライディーン」を聴いてみて欲しい*1。また、ヨノイ大尉役に扮した坂本が英国のポップスターだったデイヴィッド・ボウイ(1947-2016)や若き日のビートたけし(1947-)と共演し、英国アカデミー賞作曲賞を日本人として初めて受賞した映画『戦場のメリークリスマス』(監督:大島渚)や*2、同じく甘粕正彦(1891-1945)役で出演し、やはり日本人初の米国アカデミー賞作曲賞を受賞した映画『ラストエンペラー』(監督:ベルナルド・ベルトリッチ)を観たことはなくても、そのテーマ曲には聴き覚えがあるのではないか*3
 話を戻せば、音楽家としてのかれの業績やその評価については他書に譲ろう。ここで伝えておきたいのは、市民運動家としての「坂本龍一」である。YMOが1983年に散開(解散)したのち、坂本は1990年に活動拠点をニューヨークに移すが、2001年に「米国同時多発テロ事件(9.11)」に遭遇する。その後、アフガニスタンのタリバン政権に対する報復攻撃を米国政府が決断し、日本政府もこれを支持する中で、坂本は「本当の勇気とは報復しないことではないか。暴力の連鎖を断ち切ることではないか」と問う「報復しないのが本当の勇気」(2001年9月22日)を朝日新聞の「私の視点」に投稿。翌2002年1月には、米国の報復攻撃に対して「戦わないことによる平和の実現」に関する論考集『非戦』(幻冬舎、2002年、図1)を監修した*4。そのほか委細は省略するが、坂本は地雷廃絶*5や環境保全*6、脱原発*7や被災地支援*8などの活動にも関わってきており、亡くなる直前には、明治神宮外苑再開発の見直しを求める書簡を小池百合子東京都知事らに送っている*9
 非暴力不服従*10の態度を取り、平和や環境などの問題に積極的に発言し行動する市民運動家としての顔をもつ坂本に対しては常に非難がつきまとってきた。そのことについて、本人は「音楽家だけど、余計な口を出してしまうから」と自嘲し、「音楽家は音楽だけやっていろ、とインターネットで言われているらしいということも知っています」と自覚している。しかし「でも音楽だけやればいいとも思わない。普通の人が口出すのが民主主義でしょ。職業に関係なく誰もが声を出せる社会じゃないとダメだと思うんです」と持論を述べている。*11
 「音楽家は音楽だけやっていろ」という非難は今でも根強いのではないか。アーティストが社会問題に対して政治的に発言することは欧米ではよくあることだが、日本の音楽業界でそうすることは “ご法度” でなければ “タブー” であろう。アーティストは日々のステージの上で喝采を浴びている。しかし、いざという時にステージの上から、あるいはステージを降りて、ひとりの人間あるいは市民のひとりとして「音楽」ではなく「肉声」を発することはアーティストたる役割であり、存在意義なのではないか*12
 そうした「肉声」を発した日本人アーティストのひとりとして忌野清志郎(1951-2009)を別項で紹介したが、忌野と坂本は1982年に「い・け・な・いルージュマジック」を共作し、「♪他人の目を気にして生きるなんて くだらないことさ」と歌っている。 
 〔以上、本文中は敬称略〕

*1 YMOの2枚目のアルバム『ソリッド・ステイト・サバイバー(Solid State Survivor)』(アルファレコード、1979年)は、100万枚を超えるミリオンセラーとなった。これから「テクノポリス(Technopolis)」(1979年)や「ライディーン(Rydeen)」(1980年)がシングルカットされた。また、YMOで演奏された坂本作曲の楽曲としては、「Thousand Knives(千のナイフ)」(『千のナイフ』1978年)や「Riot in Lagos」(『B-2 ユニット』1980年)などの初期の楽曲が個人的には出色である。なお、同じく坂本作曲(作詞はChris Mosdell)の「Behind the Mask」は、エリック・クラプトン(『August』1986年)やマイケル・ジャクソン(『Michael』2010年)にカバーされるほど、欧米のアーティストの評価がとりわけ高い楽曲である。
*2 映画『戦場のメリークリスマス』のテーマ曲は「Merry Christmas, Mr. Lawrence」。映画のラストでビートたけし演じるハラ軍曹がトム・コンティ演じるロレンス中佐を呼び止めて、「Merry Christmas. Merry Christmas, Mr. Lawrence!」と別れの言葉を発するシーンが印象的である。
*3 映画『ラストエンペラー』の“テーマ曲”には2曲あり、坂本が作曲した「The Last Emperor (Theme)」はエンドロールで流れたもの。映画のオープニングに流れた「Main Title Theme (The Last Emperor)」は、英国ロックバンド「トーキング・ヘッズ(Talking Heads)」リーダーのデイヴィッド・バーン(David Byrne)の作曲によるもの。
*4 坂本龍一「報復しないのが真の勇気」『朝日新聞』2001年9月22日(転載:『sitesakamoto』、再録:坂本龍一+sustainability for peace(監修)『非戦』幻冬舎、2002年、19-21頁)。
*5 地雷廃絶に関しては、TBS50周年特別企画「地雷ZERO 21世紀最初の祈り」(総合司会:筑紫哲也ほか)に際して発足した「地雷ゼロキャンペーン委員会」に賛同して、キャンペーンソング「ZERO LANDMINE」(2001年)を他のアーティストら(N. M. L.)とともに提供している。〔参参〕坂本龍一「ZERO LANDMINE」『sitesakamoto』2001年3月18日。
*6 環境保全の分野では、2003年に音楽家の小林武史、Mr. Childrenの櫻井和寿、そして坂本龍一の3名が資金を拠出して、ap bankを設立。自然エネルギーや持続可能な社会創りのための事業などへの融資を開始。また、森林保全のために一般社団法人more treesを2007年に設立し、代表理事を務めた。
*7 脱原発については、2011年に「さようなら原発1000万人アクション」の呼びかけ人のひとりとなり、脱原発をテーマとしたロックフェスティバルの「NO NUKES」を2012年から2019年まで6回開催。
*8 被災地支援については、音楽活動支援のために「こども音楽再生基金」の設立したほか、「東北ユースオーケストラ」の代表と監督を務めた。

*9 毎日新聞「死を前に都知事に手紙 坂本龍一さんが訴えた神宮外苑の再開発見直し」『ニュースサイト「毎日新聞」』2023年4月3日。
*10 「非暴力不服従」については、湯本浩之「第4章:『平和な世界』ってどんな世界?」西あい・湯本浩之(共編著)『グローバル時代の「開発」を考える』明石書店、2017年、151-179頁を参照されたい。
*11 Sakuma, Yumiko(2016)「坂本龍一が語る、自身が作りたい音楽について」『T Japan』2016年10月31日(再掲「音楽家・坂本龍一が語る作りたい音楽、本の可能性 時と人をつなぐ音について」『T Japan』2023年4月5日。
*12 坂本自身は朝日新聞のインタビューに対して、「『音楽の力』という言葉は一番嫌いな言葉」と答えているが、「音楽というよりも自身の有名性を使ってアピールしたいと思っている」とも答えている。察するに、音楽には良くも悪くも「力」があるからこそ、その「力」への依存や悪用を禁じるための自戒の言葉なのだろう。河村能宏「『⾳楽の⼒』は恥ずべき⾔葉 坂本龍⼀、東北ユースオケ公演を前に」『朝日新聞デジタル』2020年2月2日。

<参考資料>
坂本龍一+sustainability for peace(監修)『非戦』幻冬舎、2002年。

坂本龍一オフシャルサイト『sitesakamoto

(2023年5月1日)