2-2)論文構成について

 一定の長さをもつ文章の構成のしかたには、いろいろな方法がありますが、大別すると次の2つになります。ひとつは「三段(三部)構成」の文章、もうひとつは「四段(四部)構成」の文章です。後者の代表例が「起承転結」で構成した文章です。これも作文の授業の時に指導されたと思いますが、「起承転結」はもともと漢詩の世界での約束事だったものが、日本語の文章を書くときの「お手本」と見なされるようになり、それが学校教育にも取り入れられ、国語の時間で指導されてきた経緯があります。

 「起承転結」については、「コラム」を参照していただければと思いますが、「論文」ではこの「起承転結」型の四段構成ではなく、「序論-本論-結論」という「三段(三部)」で構成していくのが一般的です。これら3つの部分を簡単に紹介すると、まず「序論」で筆者である自分が選んだ研究テーマに関する「問い(問題)」を提示し、続く「本論」で客観的な根拠やデータに基づいてその「問い」について議論し、そして最後の「結論」では、「序論」で提示した「問い」に対する「答え」を提示する、というのが「論文」における議論展開の基本となります。以下に、それぞれの部分をもう少し詳しく説明してみましょう。ただし、同じ三段構成でも、いわゆる「理系(自然科学)」と「文系(人文・社会科学)」とでは、各段に含めるべき内容が異なりますので、ここでは「文系」の中でもとくに社会科学の分野の「論文」を想定しながら説明していくこととします。

  ①「論文」の全体構成について
  ②「序論」について
    〔参考〕漢詩の絶句の形式と構成
  ③「本論」について
  ④「結論」について

①「論文」の全体構成について

 「論文」の全体構成は、上記の通り、「序論-本論-結論」となりますが、これは議論展開の大筋を表しています。これを卒業論文の具体的な「論文構成(章立て)」に対応させると「図1」のようになります。実際の卒業論文では、「序論-本論-結論(序章~終章)」という「論文」本体の前に「表紙」や「目次」がついたり、後ろに「付録」や「引用文献一覧」がついたりしますが、本体部分だけを言えば、分量的には「序論(10%)-本論(75-80%)-結論(10-15%)」が目安になるでしょう。「文献表」については後述しますので、「図1」にあるそれ以外の部分について説明しておきましょう。

表紙」には、「論文題目」をはじめ、執筆者の氏名、学籍番号、所属学部・学科などを表記します。国際学部が発行している各年次の『履修要覧』の最後に「表紙」の書き方が案内されていますので参照して下さい。

 この中でもっとも重要なものは「論文題目」です。これは短すぎても長すぎてもいけませんので、自分の論文の内容を端的かつ十分に表す工夫が必要です。場合によっては、「題目」を「主題」と「副題」に分けて表記する方法もあります。「副題」は「主題」を補足するために、研究対象を限定したり、研究事例を特定したりする場合に用います。また、題目の末尾に「・・・に関する研究」や「・・・に関する一考察」といった“決まり文句”は必ず付けなければならないものではありません。付けることによって、題目が曖昧になったり冗長になってしまうようであれば、付けない方がよいでしょう。

 「表紙」の次に「要旨」とありますが、国際学部の場合、ここに「要旨」を置くことが求められていますので、論文全体の内容を1頁(多くても2頁まで)にまとめてください。

 「まえがき」は末尾にある「あとがき」と対になっていますので、「まえがき」を置くのであれば、「あとがき」も置くようにしましょう。

 客観的かつ論理的な記述が求められる「論文」の本体である「序論-本論-結論(序章~終章)」では、個人的な事情や主観的な感情を記述することができません。しかしながら、筆者が卒業論文を執筆するに至った個人的な経緯や動機を記述することは、読み手からすると「なぜこのような研究テーマを選んだのか」を知る上で参考になります。したがって、そうした論文執筆にまつわる“プライベートなエピソード”などを「まえがき」として記述することはむしろお薦めしたいところです。ときどき「序章」の冒頭で、「この研究テーマを選んだ理由は、海外への個人旅行先でお世話になった人が実は難民で・・・」というようなエピソードを記述する人がいますが、そうした研究テーマの選択や執筆の動機となった個人的な体験や過去の経緯などは、「まえがき」に記述するようにしてください。

 また、「論文」執筆にあたって、インタビュー調査やアンケート調査などを実施する際に指導や協力を得た組織や個人に対して「謝意」や「敬意」を表したいことがあるでしょう。しかし、その「謝意」や「敬意」という筆者の個人的な感情を記述することは、客観的な記述が求められる論文の本体には必要ありませんので、本体から離して「あとがき」として記述するわけです。

 いずれにせよ、卒業論文では「まえがき」と「あとがき」を必ずしも記述する必要はありませんが、「論文」の中で個人的あるいは主観的な記述が許されているのは、「まえがき」と「あとがき」であることは覚えておいてください。

 図1:論文の構造(章立て)

○表 紙
○要 旨
〔まえがき〕
○目 次
○序 章 ・・・・・・・・・・・・・・・・・【序論:10%】
○第1章
○第2章
○第3章          【本論:75~80%】
  ・
  ・
○終 章 ・・・・・・・・・・・・・・・・・【結論:10~15%】
〔付録〕
○文献表
〔あとがき〕  
※〔〕内は国際学部の卒業論文では必ずしも必要なし。

 「付録」とは、たとえば、アンケート調査を実施した場合の「アンケート用紙」や研究活動の中で収集した資料の中でとくに重要で入手が困難な資料などを「付録(または資料)」として収録します。
 「文献表(または文献一覧)」については改めて後述します。

②「序論」について

 まず「序論」すなわち章立ての「序章」では、おおむね次のような事項について記述することが了解されています。

  「研究の背景と問題の所在」
  「先行研究のレビュー」
  「研究の目的」
  「期待される研究の成果と意義」
  「研究の方法」
  「論文展開の予告」

 「序論」でもっとも重要なことは、上記「1.2)」で説明した「問いを立てる」ことですが、「問いを立てる」にあたって、その「問い」が立つ社会的文脈、あるいは社会的背景(経緯や現状など)を説明します(「研究の背景」)。そうした文脈を説明した上で、議論の対象となる分野や領域において、何が問題となっているのかを指摘します(「問題の所在」)。社会科学という分野に関わる「論文」を執筆する場合、政治や経済の問題、あるいは人権や環境の問題など、実際の世の中で起きている事象を題材とすることが多いでしょう。そうした事象の中から議論や検証に値する重大な問題は何かを指摘するわけです。

 このように問題を明確にした上で、次にその問題に関連した「先行研究のレビュー」を行います。なぜこれが必要なのかと言えば、繰り返し述べてきたように、「論文」とは自分の主観的な印象や感想、想像や憶測に基づいて書くものではありません。自分の主張や提案に正当性や信憑性があることを読者に納得してもらうためには、客観的な根拠やデータに基づいて議論を進めなければいけませんが、それらの多くが先行研究の中にあるからです。自分が議論の対象とする問題について、これまでどのような調査や研究が行われ、どのような調査結果や研究成果が生まれているのかを確認します。そうした調査結果や研究成果に基づきながら議論を進めていくわけですが、先行研究が問題のすべてを解決しているわけではありません。問題が深刻で重大であればあるほど、その調査研究はまだ途上にあり、未解明な問題やまだ手が付けられていない研究課題も多く残されています。

 このように既存の研究成果と残された研究課題を確認した上で、自分が「論文」の中で明らかにしたい点を「問い」の形で提示します。この「問い」に答えることが「論文」の目的となります(「研究の目的」)。この「問い」が先行研究の中でも未解明な問題であればあるほど、「独自性(オリジナリティ)」の高い研究となるわけです。そして、この研究の結果を「期待される研究の成果」としてここで簡潔に述べておきます。論文の冒頭で研究の成果(結論)を書いてしまうことに抵抗を感じる人もいるかも知れませんが、序章で読み手に結論の概要を知らせることで、読み手(とくに論文を審査する査読者)は議論の進め方や結論の導き方の妥当性を確認しながら読み進めることができます。「論文」は小説や物語ではないので、結末を最後まで温存しておく必要はないのです。

 また、自分の卒業研究が先行研究のどこに位置するのかが分かると、「論文」の結論が持つ研究の意義、すなわち、その分野や領域の研究活動や実践活動に対して貢献できることが明確になります(「研究の意義」)。ただし、卒業論文を執筆する学部生の場合は、先行研究を網羅的に分析検討していくことは難しいので、学術的な「独自性」という観点はあまり気にする必要はないと本研究室では考えています。

 「研究目的」や「研究意義」を述べた後には、その「目的」を達成するために、どのような方法で研究を進めるのかについて説明します(「研究の方法」)。自然科学系の「論文」では、実験や観察という方法を用いて、その結果を考察分析していくことになりますし、人文・社会科学系の「論文」では、文献調査や社会調査が主な研究方法となるでしょう。たとえば文学作品の新たな解釈を試みようとすれば、テキスト批評という方法が採用されるでしょう。社会調査は量的(定量)調査法と質的(定性)調査法に大別されます。前者の代表格としてはアンケート(質問紙)調査があり、後者にはインタビュー調査などがありますが、ここでは個別の調査方法については説明を省略します。そして、最後に本論の各章でどのような議論を展開していくのかを予告します(「論文展開の予告」)。

 このように、「序論(序章)」では「論文」がどのような問題を取りあげ、どのような方法で研究し、どのように結論を導いていくのかという「論文」の全体像を簡潔に紹介する役割を担っています。「序論」というよりも「総論」とよんだ方が適切かも知れませんが、読み手は、この「序論(序章)」を読んで、「論文」の概要を理解し、読み手にとって読む価値があるかどうかを判断しますので、「序論」といえども重要な役割を果たしているのです。なお、本項の冒頭で示した「序論」で記述すべき事項は、その順序が確定しているわけではありませんので、必要に応じて記述する順序を変更しても構いません。「論文」によっては、先行研究の分析を「本論」の中で行う場合もありますので、その場合は「序論」ではその概要の“頭出し”をして、本論の中で詳述すればよいでしょう。

 また、修士論文や博士論文では、この「序論」の各項目を丁寧に記述する場合もあり、序論を複数の章で構成することがあります。その場合の「論文」構成については、指導教員と相談するようにしてください。

③「本論」について

 「本論」の各章では、「序論(序章)」で提示した「問い」に関して議論を展開していきます。「本論」を何章で構成しなければならないというルールはありませんが、少なくとも3章、多くても5章程度で収まるのではないでしょうか。

 各章(第1章~第○章)はさらに複数の「節」で構成され、各節はさらに「項」で構成されます。大事なことは、「節」や「項」には「見出し」とその「通し番号」を付けることです。その方法には、図2のように「章・節・項」の漢字を用いる「漢字式」、数字だけで表記する「数字式」、漢字と数字などを組み合わせて表記する「折衷式」がありますが、提出先からの指定がなければ、いずれも表記方法を統一することが重要です。

 また、各章の冒頭に「リード文」をおいて、その章の中で何を論述するのかを数行~10行程度で予告したり、章の最後に「小括」をおいて、その章での議論の結論をまとめたりしておくと、読み手には読みやすい論文となります。ただし、卒業論文では必ずそうしなければならないということではありません。