アシナマリ!

 アフリカ黒人音楽劇「アシナマリ!」を見た。膚の色の違いのゆえに刑務所暮らしを余儀なくされた5人の黒人の物語である。劇申、随所で俳優の口から発せられた「アシナマリ!(We have no money!)」は、反アパルトヘイト運動のスローガンでもあった。
 スピーカーや大道具を使わない彼らの舞台と演技は、最新の音響設備を超越し、精巧な舞台装置を駆逐していた。彼らの肉声と肉体は、汗とハーモニーとメッセージにあふれ、冗長と虚飾に満ちた日常に埋もれがちな観衆は、ただ圧倒され、引きつった笑いで応えていた。そして、一切の増幅と装飾を排した彼らの強烈な問いかけは、雄弁な演説よりも完璧な論理よりも多くを語りまた伝えていた。
 NGOは今、何を、どのように伝えようとしているのだろうか。「ベルリンの壁」が崩れた。

                        (『JANICnews』No.5、1989年11月15日)

<ひとこと>
 南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離政策)に対しては、日本でもこれに反対する市民運動が1960年代から展開されていた(たとえば、1969年「アフリカ行動委員会」発足)。1987年には日本の対南ア貿易額が世界一となり、国際社会から厳しい批判を浴びる中で、アフリカ民族会議(ANC)の東京事務所が1988年に開設。それと前後して全国各地に反アパルトヘイト運動や南ア製品のボイコット運動などを展開する市民組織が発足した。そうした機運の中で1988年に黒人音楽劇団 ( コミッティド・アーティスツ ) が来日し、反アパルトヘイト劇「アシナマリ!」の全国公演が実現した。
 参考:MBONGENI NGEMA『THE COMMITTED ARTISTS’ ASINAMALI! : We have no money.』木島始・くぼたのぞみ・小島希里(訳)、パルコ/カンバセーション、1989年。