3)「論文」の「長さ」について

 本研究室のゼミ生から、「卒論はどの程度の文字数を書けばよいでしょうか?」という素朴な質問を受けることがあります。おそらく、「論文」の「長さ」が気になる人は少なくないのでしょう。

上記2)で「論文とは・・・一定の文字数のある文章である」と書きましたが、では、具体的にどのくらいの「文字数」が「論文」には必要なのでしょうか。この「文字数」も「論文の形式」のひとつであり、必要な「文字数」を満たさなければ、「論文」としての基準も満たさないことになります。

 しかし、「文字数」については心配する必要はありません。なぜなら、「論文」の文字数は予め指定されているからです。たとえば、宇都宮大学の国際学部の場合、「原稿用紙(400字詰め)30枚以上」、すなわち、12,000字以上と下限が決められていますが、上限については指定がありません。つまり、12,000字以上であれば、何万字書いてもよいということになります。学会等が発行している紀要や論集などでも、「投稿規程」や「執筆要領」の中で、原稿種別(「原著論文」、「総説論文」、「研究ノート」など)ごとに文字数の下限や上限が指定されているのが一般的です。

 とは言え、12,000字以上の文章というのは、学部の授業で提出が求められるレポートと比較すると、格段に長い文章だと感じることでしょう。「そんなに長い文章を自分が書けるかどうか」と心配する人もいるでしょう。多くの学生さんにとって、こんなに長い文章を執筆するのは生まれて此の方、これが初めてのことではないかと思います。しかし、いざ卒論を書き始めてみると、多くの場合、12,000字では収まらなくなってきます。本研究室のゼミ生の卒業論文の中で、12,000字程度で収まったものはなく、大半は3万字や4万字を越えた長さになっています。過去最長では約6万字に及んだものもありました。

 ただし、「論文は長ければよい」とは言えませんし、「長い論文の方が評価が高くなる」わけでもありません。先行研究を丁寧に調べ上げたり、大掛かりなアンケート調査を行ったりすれば、自然と文字数も増え、内容的にも質の高い「論文」になることがあります。その一方で、同じような議論を何度も繰り返したり、多くの参考文献からの引用をただ繋ぎ合わせているだけであれば、文字数が多いからといって、質の高い論文にはなりません。このように文字数の多寡と「論文」としての質は必ずしも比例しないのです。

 逆に12,000字程度で「論文」を“コンパクトに”書くためには、この「論文」で自分は「何を主張したいのか」あるいは「何を明らかにしたいのか」という「問い」を厳密に絞り込む必要があります。この「問い」が大きければ大きいほど、また抽象的であればあるほど、議論が多岐にわたり、多くを記述することになってしまい、結果的に文字数は多いものの、何を論じているのかわからないような「論文」になってしまいます。したがって、「問い」を小さく狭く、つまり“ピンポイント”で設定することが「論文」執筆の“コツ”と言えるでしょう。

しかし、いろいろ文献を読んでいくと、また、資料がだんだん集まってくると、主張したいことや「問い」が増えていったり、今まで自分が知らなかったことや興味深いデータをあれこれと紹介したくなってくるものです。そうなると、やはり「論文」はどんどん長くなっていきます。そうした「書きたい気持ち」を抑えて、厳選した「問い」に対する的確な「答え」の導出に集中することが、コンパクトな「論文」を執筆する上で大切です。

 いずれにせよ、「12,000字」以上ということは、1冊の単行本になるような“大論文”を執筆することが求められているわけではないと、まずは安心して下さい。自分の問題関心の中核には何があるのか、自分が本当に調査したい対象とは何なのかを精査し、自分がもっとも主張したいことを明確にしていくことができれば、必要以上に長い「論文」を執筆することを回避できるでしょう。