【出版】開発教育の理論と実践:グローバル社会正義のための教育学

<基本情報>
・原 著:The Theory and Practice of Development Education:
      A Pedagogy for Global Social Justice (First published 2015 by Routledge)
・原著者:ダグラス・ボーン(Douglas Bourn)
・共訳者:湯本浩之・奈良崎文乃
・出版社:せせらぎ出版
・発行日:2025年8月20日
・判型・頁数:A5判360頁
・対 象:主に研究者や実践者
・価 格:一般価格2,750円(税込)
     会員価格2,200円(税込)
      ※2025年9月末まで開発教育協会(DEAR)の会員を対象。詳細はこちらまで。

<本書の概要・特徴>
 原著者のダグラス・ボーン(以下「ボーン」、敬称略)は、英国の開発教育協会(DEA)の事務所長を長く務めたのち、ロンドン大学教育研究院に世界初となる開発教育研究センター(DERC)を設立し、そのセンター長を2024年まで務めた人物です。さらに、開発教育の実践や研究や実務をつうじて、英国だけでなく欧州全体の開発教育やグローバル教育の普及推進に多大な貢献を果たしてきました。本書は、ボーンが自身の豊富な知見と経験をもとに初めて執筆した論考集です。
 本書が提案することは、いわば窮地に立つ開発教育を「グローバル社会正義のための教育学」として再構築して、そのための理論と実践を確立するということです。この“窮地”とは、開発教育に積極的に取り組んできた団体の解散や開発NGOの関連部門の閉鎖などが、すでに1990年代から欧米諸国で相次いできた状況を意味しています。たとえば、ボーンが事務所長を務めた英国のDEAも、財政難により2019年に解散しました。また、近年では「開発教育」に代わって、「グローバル教育」や「地球市民教育」などの用語が、教育政策や教育現場などで多く使用される傾向が強まっています。
 その背景のひとつには、開発教育を支援してきた外部資金の獲得が難しくなったことがあります。とくに、政府や国際機関のような資金提供者からは、開発教育がどのような学習効果や社会的なインパクト(影響力)をもたらすのかが厳しく問われ、エビデンスに基づいた明確な根拠が強く求められるようになっています。
 そもそも開発教育は既存の学問や理論から派生したものではなく、「南」の国々の飢餓や貧困などの開発問題に取り組んできた個人や団体の実践から始まりました。そのため、理論的な裏付けが不十分なまま、実践が先行してきたという経緯があります。また、学習や事業に対する評価も、実践者や参加者らの主観的な印象や所感にとどまりがちで、理論的な根拠や客観的なデータに基づいた評価手法は十分には確立されてきませんでした。とは言え、開発教育が重視する「学び」や「気づき」、あるいは個人や社会の「変容」の量や質を数量的に計測することに対する懸念や疑問も依然として残っています。こうした中で、本書は、その評価方法を含めた研究の重要性とその必要性を強調しています。
 本書では、英国をはじめ、その他の欧米諸国や日本などにおける開発教育の歴史や理論的な背景、過去の実践や政策の成果と課題などが紹介されています。日本のDEARのことも数か所で紹介されています。ただし、原著が2015年に発行されたことから、たとえば、SDGs(持続可能な開発目標)への言及はなく、最新の状況が反映された内容とはなっていません(なお「日本語版への序文」の中で、2015年以降の英国の近況が紹介されています)。それでも、本書が主に取り上げている「21世紀の最初の10年間」の英国や欧州の状況は、日本の開発教育の今日の状況と重なる部分が少なくなく、また、英国や欧州の開発教育が直面した課題の多くは、現在の日本の開発教育が抱える課題とも共通しています。
 ボーンは「教育に関わるすべての者は、学習者に対して、その年齢や背景にかかわらず、自分たちを取り巻く世界をより深く理解する機会を提供する責任があります」と本書の中で述べ、グローバルな社会正義の実現に向けた教育学として、開発教育の理論と実践を再構築する意義と必要性を提起しています。日本の開発教育の理論と実践を今後検討していく上で、本書が提示する重要なキーワードや刺激的な論点は、開発教育の今後の取り組みにおいて、大いに参考になるのではないでしょうか。

<目次>
日本語版への序文/はしがき/謝辞/略語一覧/用語に関する注記/凡例
〔第1部 開発教育の歴史と用語と構造〕
 第1章 はじめに:開発教育との個人的な出会いとその存在理由
 第2章 開発を学習することからグローバル学習へ
 第3章 開発教育とは何か
 第4章 ネットワーク、実践コミュニティ、それとも教育改革運動?
〔第2部 開発教育の理論〕
 第5章 開発教育の理論形成に向けて
 第6章 開発教育の教育学的枠組
〔第3部 開発教育の実践〕
 第7章 知識基盤の構築:開発を学習する
 第8章 グローバル社会での学習と技能
 第9章 NGOとより公正な世界のための教育
 第10章 開発教育のインパクトと評価
〔第4部 グローバル学習の教育学〕 
 第11章 開発教育の中心に学習を据える
 第12章 グローバル学習のための教育学
 第13章 結びに代えて
索引/訳者あとがき/原著者紹介/訳者紹介